滲出性中耳炎とは、鼓膜の奥にある中耳腔という空間に、液体がたまっている中耳炎のことです。
通常急性中耳炎と言えば、激しい痛みと高熱を伴うことが多いのですが、滲出性中耳炎ではそのような症状がない事が特徴です。
中耳腔から鼻につながる耳管という管があります。
(図1)
耳管を通って中耳腔内に細菌が入ると、中耳腔の細胞内から炎症性の水が滲み出てきます。
この液がたまる中耳炎を滲出性中耳炎と言います。
飛行機に乗って耳が詰まっている時や、電車に乗ってトンネルに入った時に起こる耳の圧迫感があくびや嚥下で症状が解消されるのは、耳管が開いて中耳腔内の圧力が外気と同じ圧に調節されるからです。
耳管の働きは中耳腔の換気、 中耳腔の排泄などですが、
耳管を通して鼻やのどの炎症が、耳へ入る事があります。
急性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎、アデノイド肥大などは
耳管の働きに悪影響を与え、滲出性中耳炎の原因となっている可能性があります。
小児では立っている時の耳管の角度が水平に近く
耳管の長さも大人に比べて短いため、鼻からの炎症がすぐに中耳腔におよびやすい構造となっています。
(図2)
鼓膜に浸出液がたまると鼓膜の内側に空気の気泡が見えたり、経過が長いと青黒い貯留液が見られることがあります。
(図3)
また鼻の突き当たりにあるアデノイドというリンパ組織は、免疫力が活発となる5~6歳の頃大きさが最も大きくなり
耳管の入り口をふさいで滲出性中耳炎の原因となることがあります。
(図4)
滲出性中耳炎の代表的な症状は、難聴です。
中耳腔内にたまった液体があると音の振動が上手く内耳に伝わらないために難聴が起こります。
お子さまの場合、聞こえが悪いという症状をうまく言い表せないこともあります。
そのため以下のような症状が見られる場合には滲出性中耳炎である可能性があり注意が必要です。
- 1.テレビの音が大きい
- 2.大きな声で話をする
- 3.呼んでも振り向かず返事をしない
- 4.耳がふさがった感じがする
- 5.風邪をひいたあとに聞きにくそうである
- 6.耳によく手をやる
- 7.鼻炎や風邪が長引いて鼻をよくすすっている
このような症状が見られた場合に滲出性中耳炎が疑われます。
滲出性中耳炎を放置すると将来、鼓膜が癒着して動かなくなる癒着性中耳炎や、
骨を溶かす真珠腫性中耳炎に移行し、将来手術治療が必要になる場合があります。
滲出性中耳炎の治療として、以下のようなものがあります。
1.鼻・のどの治療
鼻内、のどはできるだけきれいにすることが重要です。鼻汁の吸引や、鼻への薬剤の吸入などを行います。
2.耳管通気
耳管に鼻から圧力をかけて空気を通します。滲出液の排泄と耳管機能の改善に効果があります。
3.鼓膜切開
鼓膜に小さな切開を行い、滲出液を吸引除去します。鼓膜は再生能力が高いので、切開部は再び閉鎖します。鼓膜切開の目的は滲出液の除去だけではありません。滲出液を抜くと、それまで滲出液で満たされていた中耳腔に空気が入ります。中耳腔の粘膜に空気を入れる事は、粘膜を正常な状態に戻し、滲出液の再貯留を防ぐことになります。
4.鼓膜チューブ挿入
何度も切開を行っても滲出液がたまる場合、鼓膜切開部に小さなチューブを入れておきます。
(図5)
この手術で中耳の中が常に空気にさらされている状態を維持することができます。その間に中耳の中に滲出液がたまってもすぐに排泄されて、粘膜が正常に戻るようになります。
5.内服治療
滲出性中耳炎の程度が軽い場合や、鼓膜切開後に再発を防止する目的で消炎剤やアレルギーに対する内服薬を用いる場合があります。最低でも2カ月、通常3カ月ほど継続し、効果を判断する必要があります。
滲出性中耳炎は内服薬だけではなかなか治癒しない場合が多く、耳管通気や鼓膜切開が必要な場合があります。また治療期間は長くかかることがあります。特にアデノイドの肥大が大きくなる5-6歳には症状がなかなか治りにくく、その時期が過ぎて再発しにくくなる平均年齢は8歳頃といわれています。
大人になって起こる滲出性中耳炎では副鼻腔炎などが原因で起こる場合が多いのですが、まれに上咽頭腫瘍、好酸球性中耳炎などを合併していることがあり、専門医による診断が必要となります。
滲出性中耳炎は治療が長期間にわたり、一度治癒しても再発しやすく、耳鼻科専門医にかかりながら根気よく治療を続けることが大切です。