日赤医療センターの病診連携会の講演です。
「小児の慢性咳嗽〜迷う「セキ」への対応」
東京慈恵会医科大学附属第三病院
小児科 勝沼 俊雄先生
小児で咳が長引く場合には、気管支炎や肺炎の他
百日咳や喘息など、注意を要する疾患があります。
日本呼吸器学会では、3週間続く咳を遷延性咳嗽
8週間続く咳を慢性咳嗽としています。
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ニューモニアエという
病原体によって引き起こされる肺炎で、
肺炎全体の10~20%程度が
マイコプラズマ肺炎といわれています。
右の肺(写真の左側)に肺炎による白い陰影を認めます。
潜伏期間は通常2~3週間で、
感染経路は咳やくしゃみなど、飛沫(しぶき)による飛沫感染、
人との接触による接触感染もあります。
そのため、家族間での感染や学校などの集団生活の場で感染しやすく、
集団感染を起こしやすい疾患です。
感染後しばらくして気道の過敏性が亢進することで
咳が長引くことがあります。
空気感染により肺に結核菌が感染すると
好中球、マクロファージに貪食されます。
結核菌の一部は殺菌されることなく
マクロファージ内で増殖を繰り返します。
この時期にはほとんど無症状で経過します。
咳が長引く場合や微熱が続く際には病巣が増え
肺門リンパ節にも結核菌が増殖する場合があります。
さらに長期間経過すると首のリンパ腺が腫れて
全身性の播種(粟粒結核)が起こり
結核性髄膜炎、脊椎カリエスなどを来すこともあります。
診断法としてツベルクリン反応検査、エックス線検査、
細菌検査などがあります。
ツベルクリン反応検査 に用いられる
精製ツベルクリン(purified protein derivative ; PPD)は、
結核菌の培養液を加熱滅菌後、
菌が分泌した300 種類以上のタンパク質を部分精製して得られます。
個体が結核菌に感染したり、BCG 接種により免疫を獲得していると、
ツベルクリンタンパク質抗原の皮内注射によって、
局所に発赤と硬結を伴う遅延型アレルギー反応を惹起します。
PPD 0.5マイクログラムを皮内注射して
48 時間後の発赤長径を計測し、10mm以上を陽性と判定します。
核酸(RNA またはDNA )を用いた検査法は、
少量の菌があれば迅速に検出できる感度の良い検査法です。
さらにPCR 法を用いれば、理論的には1個の菌でも検出が可能です。
これらの方法で結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別ができます。
治療は標準的な化学療法では、
イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)、
ピラジナミド(PZA)、
ストレプトマイシン(SM)またはエタンブトール(EB)の4剤で治療し、
その後の4カ月間はINH +RFP の2剤、
またはINH +RFP +EBの3剤で治療します。
百日咳
百日咳菌による感染症です。
潜伏期は通常5~10日(最大3週間程度)であり、
かぜ様症状で始まり、次第に咳が著しくなり、
百日咳特有の咳が出始めます。
顔を真っ赤にしてコンコンと激しく発作性に咳込み(スタッカート)、
ヒューと音を立てて息を吸う発作(笛声;ウープ)を繰り返します。
小児呼吸器感染症ガイドライン2017によると、
1週間以上咳嗽があり、
吸気性笛声(whoop)、発作性の連続性の咳嗽(staccato)、
咳嗽(咳き込み)後の嘔吐、
無呼吸発作(チアノーゼの有無は問わない)
のうちの一つがあれば、百日咳と診断されます。
治療はマクロライド系抗菌薬を投与します。
エリスロマイシン(EM)、クラリスロマイシン(CAM)、
またはアジスロマイシン(AZM)が使用されます。
気管支喘息
子供の約5%がかかっていると言われています。
ホコリを吸ったり風邪を引くと、
風邪症状に加えて息苦しくなったり、ゼーゼー音がしたり、
呼吸困難になりますが、
これは気管支が狭くなるために起こります。
薬によって咳を止めてしまうと痰を排出できなくなり、
溜まってしまった痰が気管支の内側をさらに狭くして、
症状が悪化する場合があります。
喘息の発作は夜から朝方にかけて悪化する特徴があります。
夜になると気管支を広げていた交感神経も休むため
気管支が狭くなってきます。
このため夜明けから明け方にかけて息苦しくなったり、
発作を起こしやすくなります。
喘息発作を繰り返し起こしているうちに
気管支の壁が硬くなってしまい(リモデリング)、
縮んだまま元の太さに戻らないことで症状が悪化します。
治療は吸入ステロイド剤、気管支拡張剤、抗コリン剤
が中心で、コントロール不良の場合には
経口ステロイド剤、抗IgE抗体(商品名 ゾレア 薬品名オマリズマブ)
などを使用します。
気管支壁が厚くなり、内服や吸入治療で効果がない場合には
内視鏡を用いて気管支壁を熱変性させる
温熱治療法(Bronchial Thermoplasty;BT)を行います。
心因性咳嗽
精神的なストレスが原因で起こる咳です。
日中に激しく咳き込み、睡眠中、遊びや勉強に集中している時には
咳が見られない特徴があります。
犬が吠えるような(barking)、きんきんした(brassy)
あるいは霧笛(foghorn)のような、
大きな音のする咳嗽が反復性発作性に生じます。
治療は、マイナートランキライザー
行動変容示唆療法、呼吸訓練
カウンセリングやストレス管理を行います。
長引く咳の原因となる鑑別診断は
他に気管支異物やアトピー咳嗽などもあります。
小児の長引く咳には多くの原因があります。
いろいろな疾患が勉強できて有意義な会でした。
これからも積極的に勉強会に参加したいと思います。