今日は雨が降り寒い1日になりましたね。
18日土曜日は漢方セミナーに参加しました。
最初の講演は、
関西電力医学研究所 総合生理学研究センター長
矢田 俊彦先生
「人参養栄湯の食欲不振改善作用とメカニズム
抗フレイル戦略」
人参養栄湯に関する基礎的な研究についての発表です。
以前の研究会でも勉強した内容に
最新の知見を加えた講演でした。
食欲不振、摂食障害によるアミノ酸
グルコースの不足はインスリン低下を来します。
さらに微量栄養素の不足が長く続くと
うつや認知症などの脳機能の低下が生じます。
食欲は視床下部弓状核に存在する
NPY/AgRPニューロンを活性化することで生じます。
このニューロンを刺激する唯一の物質が
胃から産生されるグレリンです。
グレリンは食欲亢進や
成長ホルモン分泌に関与する物質で
摂食促進、エネルギー消費抑制に働きます。
グレリンはグレリン受容体
(成長ホルモン分泌促進受容体)に結合し、
食欲促進ペプチドである
視床下部の神経ペプチドY(NPY)
に作用し食欲を増やします。
また下垂体前葉において成長ホルモンの分泌を促進し
サルコペニアを改善します。
動物実験ではグレリンを投与すると
空腹期強収縮が起こり、胃の中に食物があっても
空腹期様の強収縮を起こすことが示されています。
ラットでの研究では
高脂肪食を明るい時間に食べることで肥満傾向となり
摂食制限により肥満は抑制されます。
人参養栄湯の長期間投与により
マウスの摂食量を増やしたり、体重増加に関与するという
興味深い発表でした。
人参養栄湯はグレリン分泌の促進と
グレリン非依存性のNPY活性化という2つの作用を有し、
食欲やサルコペニア、疲労・抑うつの改善など、
多くの臨床効果が知られています。
人参養栄湯の構成成分である
黄耆(おうぎ)には
高度肥満モデルマウスの血糖改善作用
インスリン抵抗性の改善作用が報告されています。
また動脈硬化や糖尿病を防ぐ
アディポネクチン増加作用が知られています。
人参養栄湯の基礎的データの解説で
理論的に漢方薬の有効性が理解できました。
続いて昭和大学医学部
呼吸器・アレルギー内科教授
相良 博典先生
「COPD患者のフレイルに対する
人参養栄湯の臨床応用と考察」
厚労省による集計では、2017年の喫煙率は
男性29.4%、女性7.2%、男女計17.7%です。
男性ではいずれの年齢層でも経時的に
喫煙率は減少していますが
女性では平成16年以降ゆるやかな減少傾向がみられます。
また年齢別に20歳代から40歳代では減少傾向ですが、
50歳代では増加傾向にあります。
タバコにはニコチン、タール、一酸化炭素の他に
70種類もの発がん性物質が含まれています。
新型タバコに関しても危険性が指摘されています。
喫煙による年間死亡数は
癌77.400人、循環器疾患33.400人、
呼吸器疾患18.100人に及びます。
喫煙と慢性閉塞性肺疾患(COPD)
は密接な関連があります。
喫煙歴が長くなると
肺胞の周辺組織の変性が起こります。
気管支喘息では気道平滑筋の内壁が厚くなるため
気道粘膜の浮腫が起こるのに比べ
COPDでは周辺組織の変性により
気道粘膜下腺の過形成が起こり
肺胞での換気が不十分となります。
COPD患者さんに
人参養栄湯を長期間投与した場合
息切れや全身倦怠感、食欲不振、
不眠などの症状が明らかに改善し、
血液検査でアルブミン値
NK細胞の活性上昇が見られました。
不安や抑うつの指標であるHADSも
明らかに改善傾向がありました。
人参養栄湯に含まれる陳皮、五味子(ごみし)
遠志(おんじ)、白朮(びゃくじゅつ)
などの成分が効果を発揮したと考えられます。
COPDは治療が難しい疾患ですが
人参養栄湯により予後が改善する可能性があり
興味深い発表内容でした。
講演会後の情報交換会では
医局で一緒に働いた
戸山高校の後輩でもある杉山先生と
久しぶりにお目にかかって
開業の苦労話や電子カルテや処方薬の工夫など
有意義なお話が出来ました。
多くの知識を吸収できて大変貴重な時間でした。
これからも積極的に勉強会に参加したいと思います。